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大阪高等裁判所 昭和57年(ネ)266号 判決

控訴人(第一審当事者参加人) 山田茂夫

右訴訟代理人弁護士 小西敏雄

被控訴人(第一審原告、当事者被参加人) 破産者関西紙管株式会社破産管財人 小松英宣

被控訴人(第一審被告、当事者被参加人) コーロン樹脂株式会社

右代表者代表清算人 上代秀雄

右訴訟代理人弁護士 露峰光夫

被控訴人(第一審被告、当事者被参加人) 金剛フロッキング株式会社

右代表者代表取締役 上野和男

右訴訟代理人弁護士 下村末治

同 三瀬顕

同 野間督司

同 近藤正昭

被控訴人(第一審被告、当事者被参加人) 阪倉金網株式会社

右代表者代表取締役 阪倉昌則

右訴訟代理人弁護士 山西健司

同 酒井隆明

被控訴人(第一審被告、当事者被参加人) 白頭化成工業所こと 坂本龍鍋

主文

本件控訴、及び、当審における被控訴人破産管財人及び同阪倉金網株式会社に対する請求拡張部分をいずれも棄却する。

当審における訴訟費用は控訴人の負担とする。

事実

《省略》

理由

一  当裁判所も、被控訴人管財人の本訴請求を認容し、控訴人の請求(当審における請求拡張部分を含む)を棄却すべきであると判断するものであるが、その理由は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決理由摘示のとおりであるから(原判決一七枚目裏八行目から同二三枚目裏一〇行目まで)、これを引用する。

1  原判決一七枚目裏八行目「記録上明らかである。」を「弁論の全趣旨によりこれを認めることができる。」と改める。

2  同一八枚目裏一二行目「原告、参加人」の前に、「被控訴人管財人と控訴人、被控訴人コーロン樹脂との間で成立に争いがなく、その余の被控訴人との間では公文書であるからその真正成立が肯認される甲第七号証、」を挿入し、同一九枚目表九行目「発信されております。」の次に「破産法上の問題点がありますので、管財人の職務として右事情について調査中であります。……つきましては、右売掛金の回収をなされないよう要請いたします。」を加える。

3  同一九枚目裏四行目から同二一枚目裏一行目までを次のとおり改める。

よって、控訴人の主張する破産宣告前の債権譲渡の対抗力の存否について検討する。

ところで、破産宣告は、その形式的確定をまたないで宣告の時から直ちに効力を生じ(破産法第一条)、破産者の有する一切の財産は破産財団を構成し、右財産は破産管財人の管理処分に委ねられるものであって、破産宣告前に破産者から債権の譲渡があった場合には、破産管財人はその債権につき差押え債権者と同一の地位に立つというべきであるから、破産管財人は、右譲渡債権につき、その譲受人と両立しない法律的地位を取得した者として民法第四六七条第二項の第三者に該当し(大判昭和八年一一月三〇日民集一二巻二四号二七八一頁参照)、しかも、破産管財人による右差押えの効力は、一般の債権差押えの場合と異なり、送達を要せず破産宣告の日時に当然に生じ、何人に対しても、これを対抗しうるものであるから、破産宣告前の右債権譲渡における譲受人は、右条項所定の対抗要件を破産宣告の日時より以前に具備しない限り、結局、破産管財人に対抗することができないと解するのが相当である。控訴人は、この点に関し、控訴人が右債権譲渡における対抗要件を具備していることを前提として(この点は、後に改めて検討する)、まず、破産宣告の効力として、債権譲渡における対抗問題について絶対的効力を生ずるものではないとし、破産法第五五条第一項を挙示するけれども、第三者である破産管財人との対抗力の優劣そのものが、破産宣告の日時により決せられることとなるのは、破産宣告の直接の効果ではなく、右宣告に伴い生起する債権譲渡の対抗問題であり、また、右条項は、善意者保護の観点から例外的に登記、登録に限り、宣告後における対抗要件の具備を許容し、その効力を認めるものであって、本件につき適切でないから、控訴人の右主張は失当というべきであり、ついで、控訴人は、破産宣告は債権の二重譲渡の場合と同視することができないとし、破産宣告の日時と債権譲渡通知の確定日付の前後によるべきではなく、破産管財人からの否認権の行使により、債権譲渡における対抗要件を否認すれば足りるとするけれども、同法七四条の否認は、同条所定の要件をみたす場合において、破産宣告前の対抗要件の具備行為を財団との関係で否認するものであり、破産管財人との対抗力の問題そのものとは次元を異にするから、控訴人の右主張もまたとり得ないというべきである。

以上により、本件について考えるに、前示のとおり、控訴人は、昭和五五年一〇月四日、破産会社から被控訴人(被告)らに対する債権の譲渡を受けているけれども、《証拠省略》によれば、右債権譲渡の通知は、同月五日、書留郵便によりなされたものであって、確定日付ある証書によったものでなく、また、その譲渡人である関西紙管(株)が、同年一〇月一五日午前一〇時破産宣告を受け、被控訴人管財人がその破産管財人に選任されたのは前示のとおりであるから、控訴人は、いずれにせよ、民法第四六七条第二項の第三者である被控訴人管財人に対抗することができず、したがって、破産財団に対する関係において、右債権の控訴人への帰属を主張しえないというべきである。もっとも、控訴人は、本件各債権譲渡通知につき、民法施行法第五条第四、第五号による確定日付けある証書として、債権譲渡通知につき第三者対抗要件を具備しているので、これをもって被控訴人管財人に対抗できる旨主張するけれども、まず、そのいう内容証明郵便については、同年一〇月一五日、被控訴人管財人は、破産会社名でその有する債権を譲渡した旨の通知がなされているとし、これにつき調査中でその債権の回収をしないよう控訴人に通知したものであるが、右は単に調査中の事実と債権回収禁止のためその前提として、債権譲渡通知に言及しているにすぎないから、右譲渡通知の指摘をもって、右施行法第五条第四号にいう引用があると解することはできず、また、同年一〇月五日の書留郵便物受領証には、関西紙管(株)から被控訴人(第一審被告)らに対するものとして、白頭化成五四四、コーロン樹脂五七七、阪倉金網五八三、金剛フロッキング五八六なる記載があり、これらにつき、それぞれ、大阪中央56・10・5なる引受日付が各押されているけれども、書留郵便物の内容が、債権譲渡の通知であるか否かにつき官署において全く明らかでない場合であるから、これをもって私署証書の引用と解する余地はなく、更に、右のような受領証に受取人等の記載があるだけで、官署印が証書自体になされていない場合になお右同法第五条第五号の要件をみたすものとは到底考えることができない。

いずれにせよ、控訴人は、本件債権譲渡をもって被控訴人管財人に対抗することができないというべきである。

4  被控訴人阪倉金網から同管財人に対し売掛金全額の支払いがあったことは、右当事者間に争いがないが、右は、原判決主文に影響を及ぼすものではない。

二  してみると、原判決は相当であって本件控訴は理由がなく、控訴人の当審において拡張された請求も理由がないから、これらをいずれも棄却することとし、当審における訴訟費用の負担につき民訴法第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大野千里 裁判官 林義一 稲垣喬)

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